[掲示板: 100万語超 報告・交流 -- 最新メッセージID: 13567 // 時刻: 2024/12/25(16:04)]
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お名前: wkempff
投稿日: 2020/9/21(21:26)
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みなさま、お久しぶりです。
この9か月、特に3月から夏くらいまでは、コロナ禍の影響をもろに受けて非常に大変な毎日でした(ITコンサル会社の経営をしております。オーナーではありませんので、さらに大変)。
読書は続けておりましたが、難物にぶち当たったり、真の駄作(読むのやめようかと思った)を結局読んだり、という感じで、はかばかしく読めておりません。
それでも、ようやく1700万語を通過したようです。
今回は、ぜひご紹介したい本もあります。
The 18th Abduction, by James Patterson, 10.5万
Before She Knew Him, by Peter Swanson、10.5万
The Puppet Show, by M.W. Craven, 12.7万
IQ, by Joe Ide、10.4万
Joyland, by Stephen King, 10.5万
Her Every Fear, by Peter Swanson、10.9万
Killing Quarry, by Max Allan Collin, 8.9万s
The Silent Patient, by Alex Michaelides, 12.4万
Catch and Kill, by Ronan Farrow, 15.3万
合計 311冊、1704.2万語
例によって長文のご紹介になります。ご容赦ください。今回ご紹介は4冊のみ(あとは、いまいち、ですかね)
IQ, by Joe Ide お薦め度★★★★☆ YL9.0~9.5
IQは知能指数でなく、主人公の名前の省略形。IQはロスのスラムを根城にするもぐりの(ライセンスを持たない)探偵で黒人です。IQは唯一の身寄りであった兄を交通事故で亡くして以来天涯孤独、しかし、スラムの住人の人助けをするうちに自然に探偵をやるようになってきました。金持ちからは決然と高額の料金を取り、貧しい人にはボランティア。鼠小僧のロス版でしょうか。
有名なラップミュージシャンが、自宅で巨大な犬(Pit Bull)を使った殺人犯に狙われます。彼は最近スランプで、この事件をきっかけに引きこもってしまいます。IQは依頼を受けて犯人を追いますが、ミュージシャンの周囲は必ずしもIQに好意的でなく、事件を棚上げした彼に早く新作をレコーディングさせて儲けたい、という思惑が見えてきます。
スラムのギャング英語満載で、非常に読みにくいです。しかし、人気作品でシリーズ化されています。IQのタフな探偵像は多くの共感を呼ぶのでしょう。
Joyland, by Stephen King お薦め度★★★★★ YL8.5~9.0
Kingの有名な作品で、例外的に短いです。遊園地でバイトすることになった主人公の青年は、遊園地で迷宮入りした女性殺人事件に深入りしていきます。また、下宿のそばに住む足に障害を持った少年と少年の母親との交流がセンチメンタルに描かれます。遊園地の運営サイドからの語りが多く、Kingなりに難しいです。しかし。実にセンチメンタルで美しい話。青春を回顧する、涙なしに語れない、しかし、すがすがしい作品。
The Silent Patient, by Alex Michaelides お薦め度★★★★★ YL7.5
リッチなカメラマンと成功した画家の、絵に描いたように幸せな夫婦。しかし、妻は、ある夜、夫に5発の銃弾を浴びせて殺害します。容疑は明白でしたが、妻はそれ以来一言も言葉を発せず、精神異常として、犯罪者用の閉鎖病棟に収監されました。
サイコセラピストの主人公は、この女性に興味を持ち、彼女を助けようと、志願して、閉鎖病棟に勤務します。彼は、彼女の犯罪のみならず、彼女の過去、父親からの虐待、を追っていきますが、彼自身も父親から虐待を受けており、彼女の過去とかぶってきます。
アメリカ最大の読者書評サイトGoodReadで最高点を取ったベストセラー。しかし、玄人筋の評価は必ずしも高くなく、ミステリーとしてはトリックに既視感がある、主人公や周辺の感情の描きこみが不十分、などと言われます。
私は楽しみました。
確かに、トリックはミステリーファンには既視感があるかも知れず、彼女を反抗に走らせた黒幕の予想はつくのかも知れません。しかし、私は完全にひっかかり、最後に黒幕が突然明かされたときには驚いて声を上げてしまいました。
非常に読みやすい英語、トリックは緻密でピースがかっちりハマるような感覚も受け、お勧めしたい一冊です。
長くなるので、いったん切ります。
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お名前: wkempff
投稿日: 2020/9/21(21:31)
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ご注意:この本は性犯罪に関するものです。性犯罪の記述無しには紹介できませんので、ご不快を感じるであろう方はお読みになりませぬよう。
Catch and Kill: Lies, Spies and a Conspiracy to Protect Predators
by Ronan Farrow め度★★★★★ YL9.0
本書はドキュメンタリー、著者はピュリッツァー賞受賞です。
2017~2018年より、ハリウッドを中心とする芸能界、政財界の大物による性犯罪やセクハラの被害が雪崩を打ったように告発され、#MeToo運動と呼ばれるようになりました。
この作品は、その契機にをつくったNew Yorker誌の記事の著者によるドキュメンタリーです。
著者のローナンは21歳でイェールのロースクールを卒業して法曹資格を取り、その後オックスフォードで博士課程を修了した俊英。国務省NBCのニュースキャスターになり、朝の番組を担当します。
彼の番組では、大物映画プロデューサのワインスタインのセクハラ疑惑を扱うことになりました。ローナンは、ワワインスタインをかつて告発した女性たちに取材を行いますが、彼女らはなかなか取材に応じませんでした。
ワインスタインを告発した女性たちは、タフロイド紙などに紙によからぬ噂を流され、職を失い、精神的に病んだり、後悔の日々を送っていました。中には、訴訟を起こしながら、州の司法長官に不起訴処分にされた女性も居ました。彼女たちは、みな、なにがしかの賠償金のかわりに守秘義務協定にサインしており、これも彼女たちの口を重くした原因でした。
性犯罪を後発した女性には、会社側の弁護士や怪しいジャーナリストが接近、事件の内容を洗いざらい聞き出します。そして、内容を曲解あるいは改ざんしてタフロイド紙などに流し、社内にも悪評を流し、女性の評判を落とし、女性を立ち直れないように傷つける。その後、なけなしの賠償金とともに守秘義務協定にサインさせる、というプロセスが一般的でした。たとえば、告発者の一人は、仕事関連のパーティに出席した過去について、パーティに性的接待要員として参加した娼婦である、と書き立てられました。
女性側は、もっと強く抵抗できなかったか、など思い悩み、キャリアの中断を嘆き、アルコールにおぼれたりしていました。
これが、タイトルのCatch and Killで、告発者の味方のふりをして近づき、詳細を聞き出し、よくない噂を流して痛めつけ、守秘義務協定にサインさせて永遠に黙らせるプロセスを言います。
ローナンな辛抱強く女性たちを説得し続け、インタビューに応じビデオ撮影に応じる女性が増えてきました。
すると、意外なことに、NBCの幹部は、ローナンに取材を延期するように迫り、身辺に注意するように「忠告」したりするようになりました。また、彼には常に尾行がついており、これはブラックキューブというイスラエルの探偵組織であることが後にわかります。
ワインスタインは政界トップ含め政財界やマスコミなどに非常に濃い人脈を持ち、当然、NBCのトップとも通じていました。また、ファローの取材をつぶすために、ワインスタインは天文学的な金額を支払ってこのイスラエルの探偵組織とも契約していました。
ついに、ファローは、NBCの報道のトップオッペンハイムから取材の中止を申し渡され、キャスターとしての契約も解除されます。
ファローは、取材した内容をNew Yorker誌に持ち込み、ここで取材を続けます。
ワインスタインの顧問弁護団からは、何度も、取材中止の警告を受けるようになります。
また、ファローの家族についても言及されるようになりました。ファローは有名な俳優ウディ・アレンの息子で、ウディ・アレン自身、ファローの姉に幼児のときに性的暴行を加え(不起訴)、義理の娘にあたる女性と性的関係を持ち結婚する、など、異常な性癖を持っていました。また、ファローの叔父は性犯罪で逮捕収監されたことがあり、これについても、タフロイド紙に暴かれ批判されることになります。性犯罪を犯した叔父が居ることは事実ですが、ファローは一度も会ったことさえない、とのこと。
New Yorkerと並行して事件を追っていたNew York Timesが、ついに、この事件に関する記事を掲載します。しかし、New Yorkerは、あせらず、チームをつくって、ファローの記事のFact Checkを厳密に行っていきます。New Yorkerがファローの手による詳細な記事を掲載したのは、5日後になりました。
その後、女性たちの告発は堰を切ったように頻発し、ワインスタインは80人の女性から告発され、逮捕されることになります。また、同じくNBCの人気キャスターであったディラン ハワードも、告発され、解雇されました。
ファローには、なぜNBCからNew Yorkerに転じて記事を書いたか、質問が殺到します。しかし、ファローの動きは複雑で、NBCに取材を禁じられ解雇されとは言わず、記事の品質がNBCの基準に達していなかった、と言い逃れをします。ファロー自身、自分のキャリアのためにNBCと全面戦争をしたくなかった、また、告発した女性たちの声を世界に効果的に伝えるためにはNBCというメディアと共同歩調を取ったほうが有利、という、したたかな計算がありました。
これが、2017年秋から起こった#MeToo運動の発端で、世界的ムーブメントの発端でした。
本書は、非常に読みにくいです。ドキュメンタリーであり、日記風にすべての出来事を詰め込んだ感じがあり、登場人物が異様に多いです。巻末にIndexがありますが、そこには、たぶん600名を超える人名がリストされています。また、追及不十分に終わったトランプ大統領関連、など、脇のエピソードも多く語られます。
しかし、全体、壮大なスパイ小説のようでもあり、Giftedの若者でありながら危険を顧みないファローを応援したくなります。
たぶん、普通の人は苦労なさるかと思いますが、歴史的にも重要な記録になるかも知れず、多くの方に手に取っていただきたいです。
しかし、私には、理解できないんですよね。政財界やハリウッドの大物は、若手女優や新人女性をホテルの部屋に呼びつけて暴行する権利を持っているかのように、多くの権力者が性的暴行を続け、立て続けに告発されます。
性的衝動はともかく、金と権力があるなら、なぜもっと犯罪的でない道を選ばないのか、不思議ではあります。
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お名前: 杏樹
投稿日: 2020/9/23(01:33)
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wkempffさん、こんにちは。
1700万語通過、おめでとうございます。
〉Catch and Kill: Lies, Spies and a Conspiracy to Protect Predators
〉by Ronan Farrow め度★★★★★ YL9.0
〉本書はドキュメンタリー、著者はピュリッツァー賞受賞です。
〉2017~2018年より、ハリウッドを中心とする芸能界、政財界の大物による性犯罪やセクハラの被害が雪崩を打ったように告発され、#MeToo運動と呼ばれるようになりました。
〉この作品は、その契機にをつくったNew Yorker誌の記事の著者によるドキュメンタリーです。
#MeToo運動のもとになった経過を書いた本なんですね。読むのは確かに大変そうです。登場人物600人…。苦労はあっても読みごたえがある本なんですね。
アメリカでも性犯罪は平然と行われ、それを記事にしようとすると妨害が入るという状況がある…なんともやりきれません。よく#MeToo運動につながったと思います。日本ではこの問題の深刻さが伝わっていないかもしれません。紹介してくださってありがとうございます。
〉しかし、私には、理解できないんですよね。政財界やハリウッドの大物は、若手女優や新人女性をホテルの部屋に呼びつけて暴行する権利を持っているかのように、多くの権力者が性的暴行を続け、立て続けに告発されます。
〉性的衝動はともかく、金と権力があるなら、なぜもっと犯罪的でない道を選ばないのか、不思議ではあります。
「暴行する権利を持っているかのように」…実際そう思っていたのではないでしょうか。告発されても握りつぶせばいい、と軽く見ていたのかもしれません。賠償金と引き換えに守秘義務にサインさせれば終わり。映画プロデューサーならなおのこと、新人女優を自分の意のままに動かすことが自分の力の証だと思っていたのかもしれません。
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13537. Re: 1700万語通過、おめでとうございます
お名前: wkempff
投稿日: 2020/9/24(18:15)
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杏樹さま
コメントありがとうございます。
大変遅ればせながら、1519万語通過、おめでとうございます。
ジャンルが全く被りませんが、いつもコメントを感謝しています。
#MeTooの広がりで、ようやく世界(欧米を中心としたいわゆる先進国)では一段階進んだように思います。
しかし、事実は小説よりも奇、さらに言うなら、小説よりはるかに複雑なんですね。
NBCやファロー周辺、そしてワインスタインへの告発者の周辺は、その後、#MeTooの広がりとともに緊張感を増しているように思います。
当然、被害にあった女性たちがすべて純粋無垢であったわけでもないでしょう。けっこう魑魅魍魎の跳梁跋扈するダークサイドですね。
ワインスタインの告発を初期に行い本書でも大きく取り上げられる女優のアッゴーワンは、その後、2018年のオスカーで黒いドレスを着て#MeTooに賛同したメリル ストリープを「偽善者」と激しく非難し、のちに同様の抗議を行ったナタリー ポートマンへも、同様の激しい批判を展開しました。ストリープもポートマンも「大人の対応」で話はそれ以上広がりませんでしたが。
彼女自身は、自身のサイン会でLGBTの女性に差別的で汚い(F* word満載だった、と言われます)言葉を浴びせ続け、ついには物理的な掴み合いを演じ、サイン会を中止する、など、お騒がせ行動が目立つようです。被害者側も決して聖人君子ばかりではありません。
ローナン自身はスタージャーナリストになりましたが、告発者が了解していないオフレコまで記事にした、と告発されたりしています。
また、気の毒なのは実の父親であるウディ・アレンはローナンの活動にきわめて批判的である点で、現在は父子の全面対決の様相を呈しています。
名優ウディ・アレンは性犯罪疑惑で活躍の場を失いましたが、凝りていない、というか、もはや、復活の途は無いでしょうね。それより、ローナンは気の毒。
私は、たまたま、日本企業でこのようなダークサイドを見るポジションに10年以上居ましたが、日本企業は、このような世界よりは相当にマシ、という感じがします。
一方で、日本は女性活躍については非常に遅れており、伊藤詩織さんの事件のような例もあり、世の中が変わるには相当な時間が必要のようです。
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お名前: ゆゆ
投稿日: 2020/10/17(22:08)
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wkempff 様
いつも丁寧な書評をありがとうございます。
今回ご紹介いただいた中で気になったのは2冊。
The Silent Patient は私が読了したばかりの作品で、Catch and Kill はちょうど知りたい思っていた事件を扱っていると分かりました。
★The Silent Patient
Audible で聞きました。アリシアのパートは女性が、セオのパートは男性が読んでいます。元の英語が易しいのでとても聞きやすかったです。全体が一人称で語られるので、使われる単語も文の組み立ても比較的簡単で、さらっと耳に入って来ました。
私はミステリーが好きで色々読みますが、この仕掛けには驚きました。途中で時々「?」と思いながらも何が引っかかるのか掴めないまま読み進み、最後で「そうだったのか」と納得しました。
周辺人物たちの描き方などやや不満もありますが、一気に聞けてとても楽しめました。
今年還暦を迎え文字を追うのが段々しんどくなってきました。耳で楽しめるオーディオブックは有難いです。
★Catch and Kill
先日エリザベス女王がワインスタインの勲章をはく奪したというニュースがありました。ネット記事を読んでもイマイチよく分からなかったのですが、wkempff様の丁寧な書評のおかげで #MeTooやウディアレンまでも絡む大事件だと知りました。
自分自身は古い価値観の中で育った人間ですが、これからの時代を生きる人たちには性別関係なく人間として尊重されてほしいと願います。
こちらは内容的にじっくり文字で読むほうがよいので、キンドルでボチボチ読み進めます。
児童書の紹介が多い中、大人の良書をご紹介いただき、本選びの参考にさせていただいております。これからもよろしくお願いします。
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ゆゆ様、コメントをありがとうございます。
私の英語力はCatch and KillやIQはかなり苦しく、The Silent Patientさえ細部まできっちり理解できているか今一つ自信が無い、というレベルです。そのレベルの備忘録、とご理解下さい。
しかし、Catch and Killに興味を持ってくださる方が複数いらして、さすが多読掲示板と感心もしますし、大変嬉しいです。
最近は、Connelly、Swansonなど、読みやすい軽いものに走っていますが、また頑張ってご紹介したいと考えています。