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お名前: wkempff
投稿日: 2018/10/7(20:55)
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5月に1300万語を通過してから、この数か月いろいろあってなかなか読めない時期もありましたが、下記の8冊、変な本も、それなりの作品も読むことができました。
2013年10月 多読開始
2018年5月1日 1302.5万語 100冊
2018年10月5日 1410.5万語 108冊
1300万語以降は、下記の8冊です。
Camino Island, by John Grisham 10.8万語
The 17th Suspect, by James Patterson 9.8万語
The Woman in the Window, by A.J. Finn 15.2万語
The Midnight Line, by Lee Child 16.5万語
Bluebird, Bluebird, by Attica Locke 11万語
Origin, by Dan Brown 18.1万語
The President is Missing, by Bill Clinton and James Patterson 15.4万語
The Girl Before, by JP Delaney 11.2万語
印象に残る作品を簡単にご紹介します。
Camino Island, by John Grisham
何年か前のGrishamの作品。リーガルものではなく、出版業界や書店の裏側を描く作品になっています。Fitzgeraldの手書き原稿の盗難、闇売買を追う話ですが、主人公は大学の講師をやっている元作家の女性、華々しくデビューしたが人気が先細り、大学の講師を首になったときにあやしい探偵会社にFitzgerald原稿捜索を依頼されます。
そういえば、Gillian FlynnやPaula Hawkinsは大丈夫かな? Kate Mortonは筆力を保っているけれど、などと考えてしまいました。Grishamファンには少し物足りないけれど、テーマが興味深くまずまずですかね。
Bluebird, Bluebird, by Attica Locke
2018年のエドガー賞最優秀長編賞受賞作。
黒人のTexas Rangerが、故郷で起こった黒人男性と白人女性の殺人を追う物語。Texasに根強く残る人種差別感情、黒人と白人のコミュニティの相いれない価値観が根底にある、暗い小説。Texas RangerはTexas州の州警察に相当し、西部劇などで正義の味方として描かれますが、実は、伝統墨守、白人至上主義の組織で、Rangerに黒人が加わること自体が異例のことでした。組織との軋轢、黒人コミュニティにも白人コミュニティにも受け入れられない焦燥、のようなものが下敷きですが、困窮する母親と主人公の関係など再度ストーリも暗く、割り切れなさの残る小説です。
最近のEdgar賞はちょっと傾向を変えているような気もしますが。。。。
Origin, by Dan Brown
Dan Brownの大ヒットシリーズ、Langdon教授ものの第五弾に相当します。Langdon教授の初期の弟子であるKirschはITで大成功し、スペインの博物館で、人類史を変える大発見の講演を行うと予告します。それは、「人類はどこから来てどこに行くのか」という根源的な問いに答えを与えるもので、宗教界に激震を走らせるものでした。しかし、Kirschは講演の本論にはいる前に凶弾に倒れます。美術館長はスペイン皇太子の婚約者ですが、この暗殺後、護衛を拒み、Langdon教授と逃走します。美人と手をたずさえ、追手から逃げながら謎解きを行う、おなじみの展開。Kirschの開発したAIが逃走の手引きをします。
なんだかんだ言っても読ませる力は大したものだと感じました。
宗教と科学の関係やAIの未来など、考えさせるテーマが取り上げられます。
The President is Missing, by Bill Clinton and James Patterson
Pattersonは、多くの助手を使ってベストセラーのミステリーを量産している流行作家ですが、なんと今回はアメリカ第42代大統領のClintonとの共著です。
タイトルは大統領行方不明ですが、小説はほとんど大統領視点の一人称で書かれます。アメリカは大規模サイバーテロに狙われていますが、テロリストと直接取引しようとした疑惑で、大統領は弾劾の危機にあります。
大統領は、自らホワイトハウスを脱出、怪しいテロリストの手先と単独で会いますが、何者かに襲われ、自らハンドルを取ってカーチェイスを演じ、弾丸の下をくぐって脱出します。そして、友人の家に隠れて自ら指揮を執り、サイバーテロ阻止に動きます。
背景に、ロシアとの緊張関係、ホワイトハウス内部の陰謀などがありますが、一般の知識以上にホワイトハウス内部が描かれるわけではありません。
最後近く、大統領自身の長いスピーチがありますが、環境問題、銃規制、女性の権利拡大など、反トランプであるClintonの主張そのもので、ちょっと笑ってしまいました。
Clintonがどの程度原稿を書いたのか、どの程度アドバイスしたのか不明ですが、彼の政治思想は色濃く反映されており、Clintonの理想とする大統領像なのかも知れません。
なお、主人公の奥さんは癌でなくなっており、副大統領は女性、という設定です。ヒラリーやゴア副大統領に迷惑がかからない設定にしたのかな。
Pattersonのミステリーにしては長く、語彙レベルの高い部分もあります。
The Girl Before, by JP Delaney
謎の新人作家のサイコスリラー。NY Timesなどの書評が良かったので読んでみました。
ロンドンの高級住宅街にある戸建の賃貸受託。著名な新進気鋭の有名建築家の作品にもかかわらず格安でした。その家は極めてシンプル、ソフトウェアにすべてコントロールされ、電灯スイッチすら無い、という徹底ぶりでした。また、入居希望者は、膨大な契約に縛られ、建築家の面接に合格する必要がありました。
この家に住むことになった二人の女性、EmmaとJaneは、パラレルワールドのように建築家と関係を持ち、過剰に支配的な建築家、自分の悲しい過去、家そのものに徐々に追い詰められていきます。そして、EmmaもJaneも、先住者が不思議な死に方をしていることに気づきます。
信頼できない語り手(Gone Girl、The Girl on the Trainなど)、過剰に位牌的な富豪との性的関係(Fifty Shades of Grey)、建物そのものが恐怖の対象(Rebecca)など、新旧の傑作ミステリーのエッセンスを集めたような小説。多少、結末が拍子抜けのような感じもありますが、面白いことは面白かったです。
5周年を記念して、稿を改め、ここのところのEdgar賞受賞作品を一気にご紹介しようかと考えています。
こちらはしばしお待ちを。
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お名前: かつらぎ
投稿日: 2018/10/8(17:49)
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wkempffさん、こんにちは。
〉2013年10月 多読開始
〉2018年5月1日 1302.5万語 100冊
〉2018年10月5日 1410.5万語 108冊
1400万語通過おめでとうございます。
5年で1400万語、すごいですね。
〉Camino Island, by John Grisham 10.8万語
〉The 17th Suspect, by James Patterson 9.8万語
〉The Woman in the Window, by A.J. Finn 15.2万語
〉The Midnight Line, by Lee Child 16.5万語
〉Bluebird, Bluebird, by Attica Locke 11万語
〉Origin, by Dan Brown 18.1万語
〉The President is Missing, by Bill Clinton and James Patterson 15.4万語
〉The Girl Before, by JP Delaney 11.2万語
おお、分厚い本がずらりと。
The Woman in the Windowがちょっと気になっていたんですが、「印象に残る作品」にあがってないということは、wkempffさん的には今ひとつだったのでしょうか。
〉Origin, by Dan Brown
〉Dan Brownの大ヒットシリーズ、Langdon教授ものの第五弾に相当します。Langdon教授の初期の弟子であるKirschはITで大成功し、スペインの博物館で、人類史を変える大発見の講演を行うと予告します。それは、「人類はどこから来てどこに行くのか」という根源的な問いに答えを与えるもので、宗教界に激震を走らせるものでした。しかし、Kirschは講演の本論にはいる前に凶弾に倒れます。美術館長はスペイン皇太子の婚約者ですが、この暗殺後、護衛を拒み、Langdon教授と逃走します。美人と手をたずさえ、追手から逃げながら謎解きを行う、おなじみの展開。Kirschの開発したAIが逃走の手引きをします。
昔、ダ・ヴィンチコードと、天使と悪魔を日本語で読みました。
美人と手をたずさえ、追っ手をかわしながら謎を解いていくのは毎回同じなんですね。
ジェームズ・ボンドの映画にボンド・ガールが登場するようなものでしょうか。
差し詰め、Langdon girl?
どの本についても内容が簡潔且つ、わかりやすくまとめられていて素晴らしいです。
私ももう少し短くまとめられるようにしようと思いました。
〉5周年を記念して、稿を改め、ここのところのEdgar賞受賞作品を一気にご紹介しようかと考えています。
〉こちらはしばしお待ちを。
楽しみにお待ちしています。
そして15週目もHappy Reading!
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お名前: wkempff
投稿日: 2018/10/8(22:29)
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コメントありがとうございます。励みになります。
The Girl in the Windowは、ご紹介しいようかと思ったのですが、The Girl on the Trainのパロディのようなところがあり、同じパロディなら、いろいろな小説の良いところをパクったような、The Girl Beforeをご紹介しようかと思った次第です。
The Girl in the Windowは、非常に緻密に構成された小説で、単独で読めば、The Girl on the Trainよりも完成度が高く、なかなかに怖くスリリングな小説です。
夫と離れた暮らすことになりハーレムの戸建に住む主人公の女性は、広所恐怖症で外に出られず、窓から外を見て暮らしていますが、隣家で奥さんが刺殺されるところを目撃します。しかし、精神を病む主人公は誰にも信用されず、そのうちに、ひたひたと恐怖が迫ってきます。
agoraphobia(広所恐怖症)というあまり聞かない精神疾患も目新しかったです。
Gone Girl、The Girl on the Trainの影響はすごいものを感じます。
本音を言うとGone Girlの完成度は抜きんでていると思うので、未読であれば、ぜひお読みになってください。
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13477. wkempffさん、ご返答ありがとうございます
お名前: かつらぎ
投稿日: 2018/10/9(20:26)
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wkempffさん、こんにちは。
お返事ありがとうございます。
〉The Girl in the Windowは、ご紹介しいようかと思ったのですが、The Girl on the Trainのパロディのようなところがあり、同じパロディなら、いろいろな小説の良いところをパクったような、The Girl Beforeをご紹介しようかと思った次第です。
ああ、なるほど。
The Girl Beforeの紹介文に「信頼できない語り手(Gone Girl、The Girl on the Trainなど)」と書いていらっしゃいましたが、同様の手法が使われているんですね。
〉The Girl in the Windowは、非常に緻密に構成された小説で、単独で読めば、The Girl on the Trainよりも完成度が高く、なかなかに怖くスリリングな小説です。
〉夫と離れた暮らすことになりハーレムの戸建に住む主人公の女性は、広所恐怖症で外に出られず、窓から外を見て暮らしていますが、隣家で奥さんが刺殺されるところを目撃します。しかし、精神を病む主人公は誰にも信用されず、そのうちに、ひたひたと恐怖が迫ってきます。
〉agoraphobia(広所恐怖症)というあまり聞かない精神疾患も目新しかったです。
私が読んだAll the Light We Cannot Seeにもagoraphobiaの人物が登場していました。
閉所恐怖症というのは聞いたことがありましたが、逆もあるのかと知りました。
〉Gone Girl、The Girl on the Trainの影響はすごいものを感じます。
〉本音を言うとGone Girlの完成度は抜きんでていると思うので、未読であれば、ぜひお読みになってください。
話題になった作品なので、どちらか読んでみようと思っていて、The Girl on the Trainにしようかと思っていたのですが、wekmphhさん的にはGone Girlの方がおすすめですか。迷いますねぇ……。
両方読めばいいでしょうか(笑)
どちらにしろすぐに読めないので、ウィッシュリストに入れておきます。
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お名前: wkempff
投稿日: 2018/10/10(19:07)
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Gone Girlと、The Girl on the Trainを迷われているとのこと。
是非、両方読んでください。。。。
と申し上げたいのですが、どちらか迷われた場合を考えて、若干補足させてください。
Gone Girl
・構成は相当に複雑かつ緻密。時間軸どおりにかかれておらず(夫婦の日記が交互にあらわれますが、妻の日記は相当に過去にさかのぼります)、特に妻の日記は虚飾に満ちて何が本当かわからなくなります。
・至るところに伏線が張られていて、なかなか読み飛ばすことはできません。決して大仰な英文ではないのですが、こういう要素もあり、けっこう読みにくいです。
・典型的なイヤミス。特に男性は、美人サイコパスにこういう追い詰められ方をしたらたまらんでしょう。蜘蛛の巣に徐々にからめ取られていく恐怖を覚えます。
The Girl on the Train
・こちらはGone Girlよりは単純です。アル中の女性が自らの過去を追うように事件に巻き込まれていきますが、アル中で記憶が飛んでおり、自分が何をやったかわからず、周囲からも信用されない、というところが恐怖の源泉です。
・英文は非常に読みやすいです。Graded Readerかと思うくらい。イギリスの小説にしては珍しいです。
・後味の良い終わり方で、読後感か清々しいです。
私としては、Gone Girlの緻密な構成を楽しんでいただきたいのですが、どちらでも、読んでがっかりすることは無いだろうと思います。
なお、The Girl in the Windowではなく、The Woman in the Windowでしたね。失礼しました。
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wkempffさん、こんにちは。
補足のご説明ありがとうございます。
〉Gone Girl
〉・構成は相当に複雑かつ緻密。時間軸どおりにかかれておらず(夫婦の日記が交互にあらわれますが、妻の日記は相当に過去にさかのぼります)、特に妻の日記は虚飾に満ちて何が本当かわからなくなります。
wkempffさんの補足コメントを読む前に、アマゾンのなか見!検索でGone Girlを覗いてきました。
Nick Dunneのほうは普通の日記の文章だと思いましたが、Amy Elliottのほうはなんと言うのか、テンションが高くて、少し読んだだけですが、落ち着かない気分になりました。
日記の文体だけで、こういう気分になるのはすごいと思いました。
〉・至るところに伏線が張られていて、なかなか読み飛ばすことはできません。決して大仰な英文ではないのですが、こういう要素もあり、けっこう読みにくいです。
〉・典型的なイヤミス。特に男性は、美人サイコパスにこういう追い詰められ方をしたらたまらんでしょう。蜘蛛の巣に徐々にからめ取られていく恐怖を覚えます。
気持ちに余裕があるときに読んだほうがよさそうですね。
〉The Girl on the Train
〉・こちらはGone Girlよりは単純です。アル中の女性が自らの過去を追うように事件に巻き込まれていきますが、アル中で記憶が飛んでおり、自分が何をやったかわからず、周囲からも信用されない、というところが恐怖の源泉です。
〉・英文は非常に読みやすいです。Graded Readerかと思うくらい。イギリスの小説にしては珍しいです。
〉・後味の良い終わり方で、読後感か清々しいです。
読後感が清々しいとは予想外でした。
信用されない語り手の物語が、どうやったら後味の良い結末を迎えるのか、読むときの楽しみにします。
〉私としては、Gone Girlの緻密な構成を楽しんでいただきたいのですが、どちらでも、読んでがっかりすることは無いだろうと思います。
2作のうち、読むならThe Girl on the Trainにしようと思っていたのは、あらすじを読み比べたとき、Gone Girlはなんとなく消耗しそうな気がしたんです。それでやめておこうと思っていました。
ですが、今回wkempffさんにおすすめされ、アマゾンで冒頭を読んでみて、あの性格が窺い知れるような日記の文章に惹かれました。
頭が良く自信家で、自分の魅力をよくわかっている女性を想像したんですが、私の想像が合っているのか、間違っているのか、読んで確かめてみようと思います。
読むのは来年以降になるかもしれませんが……
〉なお、The Girl in the Windowではなく、The Woman in the Windowでしたね。失礼しました。
意味はわかりましたので、お気になさらず。
そのうちThe Girl in the Wiindowという作品が生まれるかもしれません(笑)
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13482. Re: 多読5周年記念、最近のエドガー賞最優秀長編賞紹介
お名前: wkempff
投稿日: 2018/10/12(19:25)
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最近のエドガー賞(長編小説賞)作品
エドガー賞は全米探偵小説家協会の賞で、さまざまなジャンルがあります。その中でもっとも上位に来るものが最優秀長編小説賞です。日本でいうと直木賞に相当するかと。文学のプロとしての選定でありながら、一般民衆の好みも加味されており、普通の人にはなかなか読み通せない複雑怪奇な作品を選定するブッカー賞(イギリス連邦でもっとも権威があります)や、ときに政治的メッセージが前面に出すぎるノーベル文学賞の受賞作よりは安心して読めます。
気づいてみれば、2011年からのエドガー賞受賞作(最優秀長編小説賞)、全部読んでいました。すでにご紹介していますが、この機会に一気にご紹介します。読みやすさレベル(YL)を独断と偏見で付け直しました(書評システムへの私の投稿と少し違っています)。当然、お勧め度も独断と偏見です。
2016年あたりから、少し受賞作の傾向が変わっている気がするのですが。。。。
時に趣味に合わない作品にも当たりますが、読むものに迷ったらエドガー賞受賞作、という選び方もあるかと考えています。
下記、YLはできるだけSSSの皆さんの基準に合うように再度設定しました。お薦め度は★★★★★が最高ランクになります。日本語のタイトルが書いてあるものは、日本語訳の書名です。
2018年、Bluebird, Bluebird, by Attica Locke
YL 8.5、お薦め度★★☆☆☆
自分の故郷であるテキサスの田舎町で起こった黒人男性と白人女性の殺人事件を、黒人Texas Rangerの主人公が追います。Texas Rangerは州警察に相当しますが、体質は非常に古く、白人至上主義が跋扈しています。また、Texasの田舎街は特に差別感情が酷く、主人公は白人コミュニティに歓迎されないばかりか、Rangerの一員であることで黒人社会ららもバリアを張られます。
主人公と妻や母との関係がサイドストーリーになっていますが、なんとなく歯切れが悪く、後味があまりよくない小説です。表現が直接的でない英語で読みやすくありません。
2017年、Before the Fall(晩夏の墜落) Noah Hawley
YL 8.0、お薦め度★★★★☆
リゾート島からニューヨークに戻るプライベートジェットは、メディア王と投資家の一家を乗せ、大西洋に墜落します。ここになぜか貧しい画家が乗り合わせ、九死に一生を得たばかりか、メディア王の長男を救出して荒海を泳ぎきります。しかし、マスコミや司法は必ずしも画家に好意的でなく、画家犯人説まで蔓延していきます。主人公である画家は、身を隠していましたが、ついに好意的でないマスコミと対峙することになります。
小説は、飛行機に乗り合わせた富豪たちの一家のみならず、パイロット、副操縦士、CA、ガードマンの過去まで掘り下げて生きます。当然、墜落の原因にほとんどは無関係です。
しかし、大富豪の生活、フェイクニュース、マネーロンダリング、トロフィーワイフ、など、アメリカ最上層の実態を描いた、実に重厚な人間ドラマになっています。ミステリーとしてみると墜落の謎を追うには余分なピースがたくさんある不思議な作品。
2016年、Let Me Die in His Footsteps (土中の記憶) Lori Roi
YL 8.5、お薦め度★☆☆☆☆
アメリカ最後の公開絞首刑から着想された、おどろおどろしい作品。
ケンタッキーの田舎町では、少女が15歳と16歳の誕生日のちょうど中間の日に井戸を覗くと将来の夫の顔が見えるという伝説がありました。しかし、主人公が井戸に近づくと、将来の夫どころか、対立する家の老女の遺体につまずきます。この老女の息子は婦女暴行の罪で18年前に公開絞首刑になっていますが、被害者の女性が魔力を持ち漆黒の瞳で誘惑したとうわさされ、この女性は忽然と姿を消していました。主人公の少女はこの女性の姪であり、自分の容姿この女性に徐々に似てきていることに気づいてきます。
物語は実にゆっくりゆっくり進み、田舎の閉塞的な人間関係、家の対立、度重なる失踪事件、公開絞首刑、など、陰惨さを増していきます。行ってみればアメリカ版八墓村。
難しい単語が使われるわけでもない、複雑な構文が出てくるわけでもないけれど、なにか霞がかかったような感覚を覚える英文で、話がなかなか展開しないこともあり、決してやさしくありません。
作者は、この作品が3作目の女流新人、前2作は、エドガー賞新人賞、最優秀長編賞ノミネート、と、エドガー賞とは非常に相性が良いようです。
2015年、Mr. Mercedes (ミスター メルセデス) Stephen King
YL 7.5 お薦め度★★★★★
なぜいまさら大御所Kingにエドガー賞?といぶかしく思いましたが、読むと納得させられます。
ロサンゼルスの職業紹介フェアの開場を待つ求職者の列に大型のメルセデスが故意につっこみ、8人が死亡する大惨事になりました。しかし、車は盗難車で、犯人は逃げおおせてしまいます。
これは主人公の老刑事が定年前に手がけた最後の事件でした。老刑事は引退後に無聊の日々を送っていましたが、ある日、犯人から挑戦状が届き、近隣に住む秀才の黒人青年、メンタルに疾患を抱えながらITに強い白人中年女性とともに、事件解決に乗り出します。しかし、犯人は、さらに大規模なテロを計画しているらしく、主人公たちは時間と戦いながら大規模テロ阻止に奔走します。
ホラーの大家Kingのクライムもの。超常現象的な要素はなく、King節を残しながら切れのよい文章でどんどん話は展開します。King作品の中では例外的に読みやすく(日本人には、です)Kingを最初に読む人にお薦めしたい傑作。3部作になっており、この作品が最初の作品です。
2014年、Ordinary Grace (ありふれた祈り) William Kent Krueger
YL 7.0 お薦め度★★★★★
ミネソタの田舎町の牧師の長男である主人公は、吃音のある弟を従えて静かに夏休みを過ごしていました。主人公の姉は音楽の才能があり、音楽学校への進学が決まりかけていました。しかし、ある日、姉が失踪、ほどなく、遺体となって発見されます。
悲劇の原因や犯人を追うミステリーの要素もありますが、悲劇を乗り越える家族の絆、それを支える隣人愛を描く、感動的な作品。
13歳の少年の目から語られる、流れるような、実に読みやすい英文です。
2013年 Live by Night (夜に生きる) Dennis Lehane
YL 9.0 お薦め度★★★★☆
1929年、ボストンのゴロツキだった主人公は、マフィアの情婦と通じて命を狙われますが、闇酒場襲撃の罪で父親である警察官に逮捕され、服役します。刑務所内でマフィアの頭目の知遇を得、フロリダに渡り、抗争に次ぐ抗争を乗り切ってマフィアのボスにのし上がっていきます。仲間や恋人の裏切り、多くの殺人などギャングものの王道ですが、ほの暗いトーンが漂っています。名文家の誉れ高いLehaneの作品ですが、1930年代(禁酒法時代)中心の物語で見慣れない単語もあり、かつマフィアの会話には隠喩が多く、相当に読みにくいです。
作者は、Mystic RiverやShutter Islandの著者、名文家として名を馳せています。
2012年 Gone (喪失) Mo Hayder
YL 8.5 お薦め度★★★☆☆
イギリスの地方都市ブリストルを舞台とする刑事もの。カージャック事件が発生、車の後部座席には少女が乗ったままでした。少女の行方に手がかりは無く、警察と家族をあざ笑うかのように犯人から脅迫や挑発が続きます。主人公のキャフェリー警部は同僚の女性刑事の助けを借りて事件を追いますが、以前のおぞましい事件の記憶がよみがえってきます。腐臭漂う地下下水道の攻防が作者のひとつの持ち味。
Mo Hayderは、殺人現場や腐乱死体など過剰にリアルな残酷描写が持ち味の女流スリラー作家。この作品は、相当に残酷描写を抑え、受賞に至りました。プロットの構成はみごとです。
2011年 The Lock Artist (解錠師) Steve Hamilton
YL 7.0 お薦め度★★★★★
主人公はハンサムな青年ですが、幼少期のトラウマで声を失い、言葉を発することができません。孤独な少年時代を、絵を描き、錠前を解錠してすごしていました。彼に美しいガールフレンドができますが、彼女の父親が事業の失敗からギャングに恐喝されます。主人公は、彼女と家族を救うために、ギャングの一味に加担、凄腕の金庫破りになり、犯罪を重ねていきます。シンプルな道具で時間と戦いながら錠前を破る緊張感あふれるシーンが特徴。クライムものでありながら青春小説のようにすがすがしい小説。文章は明快、短文を重ねる文体で、洋書をはじめて読む方に強くお勧めします。
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お名前: かつらぎ
投稿日: 2018/10/13(13:00)
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wkempffさん、こんにちは。
多読5周年おめでとうございます。
そしてエドガー賞(長編小説賞)受賞作のご紹介ありがとうございます。
〉気づいてみれば、2011年からのエドガー賞受賞作(最優秀長編小説賞)、全部読んでいました。すでにご紹介していますが、この機会に一気にご紹介します。読みやすさレベル(YL)を独断と偏見で付け直しました(書評システムへの私の投稿と少し違っています)。当然、お勧め度も独断と偏見です。
2011年からのエドガー賞受賞作、8作品を読破してらっしゃったんですね。すごい!
〉2017年、Before the Fall(晩夏の墜落) Noah Hawley
〉YL 8.0、お薦め度★★★★☆
〉リゾート島からニューヨークに戻るプライベートジェットは、メディア王と投資家の一家を乗せ、大西洋に墜落します。ここになぜか貧しい画家が乗り合わせ、九死に一生を得たばかりか、メディア王の長男を救出して荒海を泳ぎきります。しかし、マスコミや司法は必ずしも画家に好意的でなく、画家犯人説まで蔓延していきます。主人公である画家は、身を隠していましたが、ついに好意的でないマスコミと対峙することになります。
〉小説は、飛行機に乗り合わせた富豪たちの一家のみならず、パイロット、副操縦士、CA、ガードマンの過去まで掘り下げて生きます。当然、墜落の原因にほとんどは無関係です。
〉しかし、大富豪の生活、フェイクニュース、マネーロンダリング、トロフィーワイフ、など、アメリカ最上層の実態を描いた、実に重厚な人間ドラマになっています。ミステリーとしてみると墜落の謎を追うには余分なピースがたくさんある不思議な作品。
推理小説でも登場人物の過去を掘り下げる作品はありますが、だいたい謎解きに絡んでいるもので、ほとんど無関係なのに描写されているというのは珍しいですね。
〉2011年 The Lock Artist (解錠師) Steve Hamilton
〉YL 7.0 お薦め度★★★★★
〉主人公はハンサムな青年ですが、幼少期のトラウマで声を失い、言葉を発することができません。孤独な少年時代を、絵を描き、錠前を解錠してすごしていました。彼に美しいガールフレンドができますが、彼女の父親が事業の失敗からギャングに恐喝されます。主人公は、彼女と家族を救うために、ギャングの一味に加担、凄腕の金庫破りになり、犯罪を重ねていきます。シンプルな道具で時間と戦いながら錠前を破る緊張感あふれるシーンが特徴。クライムものでありながら青春小説のようにすがすがしい小説。文章は明快、短文を重ねる文体で、洋書をはじめて読む方に強くお勧めします。
タイトルを見て、Rock Artistとかけてあるのかなと思いました。Rock 'n' rollerは声が出ないとできませんが。
アマゾンで表紙を見たら、おどろおどろしそうな雰囲気でしたが、そうでもないんですね。
積ん読が溜まっているのですぐには読めませんが、気になった本をメモしておきます。
ご紹介ありがとうございました。
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たびたびコメントありがとうございます。
The Lock Artistは、ご紹介した小説の中でももっともグロや残酷シーンと遠い小説です。
クライムものですが、証拠を残さぬ金庫破りですので。
たぶん、英語NativeにはLとRはまったく別の音であり、聞き間違いなど考えられないのだろうと思います。
しかし、私は、何人かのアメリカやカナダの友人にこの作品を紹介したときに、Lock? Rock?と聞かれました。
私の英語力はそんなものです。
(日本人とつきあいなれている欧米人の間では、日本人がRとLがむちゃくちゃであることは有名のようですが。)
ただし、日本人の英語が通じない要因の中では、RとLの混同はマイナーなのではないかと感じています。
2つのミステリーの紹介への返信もありがとうございました。
Gone Girlはロザムンド パイク主演、The Girl on the Trainはエミリー ブラント主演で映画化されています。
Gone Girl のロザムンド パイクはすばらしい美人サイコパスの演技です。
エミリー ブラントは、美貌を隠してのアル中中年女性役、未見ですが興味あります。
(The Devil Wears Prada. で、主人公のアン ハサウェイをいじめる先輩秘書役でスターダムにのしあがりました)
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13485. 多読5年、1400万語、おめでとうございます!!
お名前: ミッシェル
投稿日: 2018/11/7(20:53)
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wkempffさん、ご無沙汰しています。
resの遅いミッシェルです。
〉2013年10月 多読開始
〉2018年5月1日 1302.5万語 100冊
〉2018年10月5日 1410.5万語 108冊
wkempffさんは、掲示板に登場された当初からがんがんペーパーバックを読破されていて、本当に拍手拍手です。
一冊の語数が多いので、冊数に対して語数がものすごいですね~。
〉1300万語以降は、下記の8冊です。
丁寧な書評とともにアップしてくださって、ありがとうございます。
Grishamって、意外と法廷もの以外の話も書いてるんですよね…。
ミッシェルは児童書系しか手に取っていないのですが。
そういえば、Skipping Christmas、最初があまりにダラダラで、投げたままです。
amazonの評価が高いので、きっと後半がいいのだろうと思って、いつか再読しようと思いつつ、そのまま早5年…。
あ、Theodore Booneの新作「The Scandal」はもちろん読みました。オチが読めて残念でしたが、後味悪くは終わらないので、安心して読めます。
エドガー賞の方も、たくさんの情報をありがとうございます。
自分では読んでないくせに、読んだことある気になってきました(笑)。
読んだことあるのは、The Lock Artist だけです。
読みやすいし、展開もメリハリあって、これはエドガー賞初心者におすすめですね!賛成票です!
また、いろいろと情報教えてください。
ではでは。
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ミッシェルさま、お久しぶりです。
コメントををありがとうございます。
Grishamについては、Skipping ChristmasもTheodore Booneも強く勧められたことがあるのですが、なんか彼の切れ味の良いリーガルものとイメージが違って未読です。今回ご紹介したCamino Islandは、古書や稀覯本市場、そして、デビュー作でヒットを飛ばした女流作家のその後(第二作以降売れなくなってからどう凌ぐか、など)に興味があり、まずまず、という感じでした。
しかし、Grishamをこれから読まれるなら、最初の3作、A Time to Kill、The Firm, The Pelican Briefをお薦めしたいです。
The Lock Artistは、エドガー賞とバリー賞ダブル受賞の傑作ですが、英語そのものは奇跡的に読みやすいと思うし、読後感の良い小説ですので、多くの方にお勧めしたいです。
最近のエドガー賞は複雑な構成の凝った作品に傾斜しているような感じもしますが、最近の受賞作もお読みください。