面白かった! 「Red Mandarin Dress」

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3168. 面白かった! 「Red Mandarin Dress」

お名前: 柊
投稿日: 2014/10/8(12:44)

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Qiu XiaolongのRed Mandarin Dressがあまりにも面白かったので、推理小説としてのネタバレがない程度に報告します。

著者は上海生まれの中国人ですが、今はアメリカに住んでいて、英語で小説を書いたり、中国の詩の英訳をしたりしています。読んだ感じ、どこか間違っているというのは指摘できないのですが、ネイティブの英語と何かが違って、日本人の英語にちょっと近いです。

Inspector Chenシリーズの5作目ですが、私はこの著者は初めて読みました。たまたま、休暇中の捜査官がパニック障害になる話と聞いたもので、「何じゃそりゃ?」と読んでみることにしたのでした。私も治まってはいますが、パニック障害の病歴があったもので。

論文のプレッシャーに加えて、殺人事件を抱え、将来不安が加わり、コーヒーを大量に飲んで発作を起こした、と。コーヒーは、パニック発作の誘因になるんですよね。でも2度目の、休暇中に生きた猿から脳味噌を取り出すところを見せてから食べさせる料理のせいで発作を起こしかけるのは、そりゃ普通のことだ、という気がしてなりません。

チェンは詩人でもありますが、職業はChief Inspectorという何だかすごそうな肩書きの持ち主です。主任警部か、主任警視か? 肩書きの割りにまだごく若い。つまり、エリートです。父は儒学者で、文化大革命の際は苦労しました。寝室が3つある家から追い出されたとか。元はお坊ちゃんなんですね。大学時代は英米文学を専攻し、今、中国文学を勉強し、賢人たちの教えを学んで、今後の身の振り方を考えたいと思っているところです。丁度、大学で短期集中講座があるのです。本人にそのつもりがあるのかないのかわかりませんが、MAを取っておくと今後の出世にも良いらしい。その上、今までに政治的にデリケートな事件を何件も扱ってきたため、上海警察のトップになると目されています。

事件ですが、シリアル・キラーです。タイトルの通り、赤いマンダリン・ドレスを着せられた若い女性の遺体が発見されます。マンダリン・ドレスというのは、北の方のManchurianが着ていたものが、中国の伝統衣装になり、その後文化大革命を機に廃れたものの、今また流行ってきていると言うことですので、日本で言うチャイナ・ドレスなのかなと思います。

第一発見者は、大豆のスープ(緑のオニオンと、乾しエビ、麺かワンタンと、紫の海草入り)を飲むのとジョギングが楽しみの初老の男性。若い頃は毛沢東のプロパガンダ・ティームの一員としてエリートでしたが、今は破産寸前。このプロローグからすでに、毛沢東時代の階級闘争と社会主義、鄧小平時代になってからの資本主義に近づいていく様子がよく出ています。

チェンは政治的なややこしい事件の協力を求められ、自分は大学の集中講義を取るから時間がないといって断わります。それから大学で習う教授に会ってみると、教授は中国文学でお金がなく、教授の娘は資本主義の何か(株取引とか?)でお金持ち。「一国二制度」と呼ばれるような家柄。教授はいきなりチェンに、thirsty deathの話を振ります。漢字は「渇死」なのかな? 恋い焦がれて死ぬという意味の他に、二つの道に引き裂かれるという意味があったような、とチェンは早速詩人モード。

チェンは子どもの頃は貧しかったようで、従兄が連れてきてくれた小龍包屋さんに行って、あの頃と同じ味だ、と思ったりします。でも、その頃は庶民御用達の1階しかなかったけれど、今は倍の値段を払う2階、3倍の値段を払う3階があります。小龍包は同じ。待ち時間が違うだけ。チェンはスノビッシュなので、空いている3階にあっさり行ってしまいます。どうやら、経費で落ちるらしい。でもその従兄は、大学に行っていたためか、文化大革命で僻地へ飛ばされ、乾いた井戸に飛び込んで自殺してしまいました。多分、飢え死に。

囲碁を指すように、ここで置かれた白い石はそれだけに見えるけれど、いずれ大きな絵の中で役割を果たすのだ、とか、よく出てくる「雨後の竹の子のように」「万骨枯れて一将なる」などのことわざが、今まで英語で読んだ本より親しみやすかったです。「君子は牛が殺されるところを見ない」とか、孔子の教えも多かったですし、孟子も出てきましたね。

全体に、中国語がもっとわかればなあと残念に思いました。チェンが論文用に選んだ伝説が載っている本や何かの名前が、もしかしたら日本語では歴史の教科書で見たことがあるものではないかと。冬至ぐらいは見当が付きましたし、亡くなった人のために燃やす特別のお札や、お寺の様子は「大地の子」や「西遊記」で読んだのと同じ感じでしたが。伝統的な考え方の内容や、無信心だけども困ったら仏教のやり方に頼ってみるのも、理解できます。

近い国なんだなあと言うのと同時に、誰でも彼でもちょっと深く知ろうとすると文化大革命が出てきたり、精神科にかかるなんて言うと非国民だった時代が長かったり(なぜなら、社会主義の元で国民は皆幸せなはずだから)、社会主義と資本主義の相克が今まさに凄まじいことになっているんだなというのも思いました。事件も、猟奇殺人だけど、和風に似た風味があったり。

いやー、面白かったです。翻訳が1作目しかないので、英語が読めて良かったと、すごくしみじみと思いました。とりあえず、紀伊国屋でシリーズ全部注文しておきました。楽しみ♪

ではでは。


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